静かな背中と美しい手

千葉県いすみ市 大原ソーイングさん

TANNUKIの「Sato Soft Neck Warmer」は千葉県いすみ市の縫製工場で生産していただいています。そこに至るまでの経緯や工場の紹介、工程などをまとめてみました。


大原ソーイングは50年を超える歴史を持ち、高い技術力を誇る、千葉県いすみ市にある縫製工場です。2023年12月に開催された「いすみ健康マラソン」の参加賞のネックウォーマーを、TANNUKIブランドのアイテムとしてこちらで生産いただけることになり、その出来栄えがかなり良い感じで、通常の製品としても作っていただくことになりました。


ところで、いすみ健康マラソンの参加賞についてですが、いすみ市民やいすみ市を訪れるランナー達が、市内で作られたアイテムを着用するということにはとても意義があることだと思っています。市内の大きなイベントであるマラソン大会のことは大原ソーイングで働かれている職人さんたちももちろん知っており、子供たちや孫たち、友人、知人が大会に出場する、という職人さんたちもたくさんいるとのことです。自分たちが手作りするものを自分たちの町の大会で使われてみんなに喜んでもらえる、というのは彼らにとってもうれしいことなのではと思っています。


いすみ市は、海のイメージが強いかもしれません。実際にたくさんの人が海水浴やサーフィンに訪れますし、海の幸も豊富です。伊勢海老の水揚げは全国一を誇ります。一方で少し内陸に入ると、田んぼや畑が広がる長閑な雰囲気になります。他にもかわいらしいいすみ鉄道が市内を走るなど、見所がたくさんあるところです。

そんないすみ市の西大原駅から少し歩いた先に大原ソーイングはあります。


工場はざっと以下のように構成されています。

大きな長方形の建物が2つ並行して建っています。正面から左側の建物で主に延反(生地を伸ばすこと)と裁断を担当、右側の建物が縫製を担当します。後部で二つの建物がつながっており、そこのスペースで検針等を行います。


縫製工場を見たことが無い人も多いかと思いますが、製品が出来上がってくるまでの過程において、初めて見る人などはびっくりするほど、様々な工程で実際に人の手で作られています。人の手で作られている=職人技が生きる、ということでもあり、まずは大会の参加賞をと考えていた段階において、同じ市内で技術力の高い職人さんたちが働く工場と出会えたことはとても有難いことでした。


以下にネックウォーマーができるまでの工程を紹介していきます。



ベースとなる生地が届きます。生地もいろいろありますが、おおよそ横が大体150cmくらい、縦は50mくらいでまとめられているもの(1反と呼んでいます)が多いです。50mありますのでかなりの重量になります。これをパーツに裁断していく必要があるのでそれを広げるスペースが必要になります。




50mの生地は芯に巻き付けられた形で納品されます。これを伸ばしていくための延反機にかけていきます。正しく機械にかけ、伸ばしていくことは次の裁断の品質に影響します。ここも生地によって厚みや風合いが異なりますので、どのように重ねていくのかという部分に経験が必要になります。




次が裁断です。大原ソーイングには手で裁断するための装置が2台と、自動裁断機が1台あります。細かく柄を合わせる必要がある製品などは手で1枚ずつ裁断していきます。自動裁断はコンピューターにパターンを入力するとその指示通りに裁断してくれ、縫い合わせる場所に目印を付けられるなど自動裁断の利点もあります。生地によって調整を行う裁断機の操作にもやはり経験が必要なところです。




裁断後、いよいよ縫製になります。熟練の縫製職人さんたちが1点1点をミシンで縫い合わせていくことになります。縫製と一口にいっても様々な種類の縫い方があり、それに合わせたミシンがあります。大原ソーイングでは多様なミシンが100台以上あり、それが居並ぶ姿は圧巻です。工場によっては例えば肩部分を本体に縫いつける人はその作業のみを一日中行う、というような分業体制を採用しているところもありますが、大原ソーイングでは、複数の工程を同じ人が立って移動しながら受け持っていく方式(立ちミシン方式)を採用しています。この方式により、少ない数量に対応できたり、1日あたりの生産枚数を予測しやすかったり、というようなメリットもあるとのことですが、やはり1番は作り手としての気持ちの強さや誇りの高さに繋がる部分に利点があるのではと思いました。実際に職人さんたちからは自分が縫うからには、より良いものにしたいという思いが強く発せられているように感じられました。

このようにとてもメリットのある立ちミシン方式ですが、これを成立させるためには様々なミシンの特性を知り、扱うことができる経験が必要で、またチームワークも大切になるということでした。




今回のネックウォーマーはシンプルなつくりですが、2種類の縫製方法が使われていています。まず生地の端を始末する2本針と呼ばれる縫製です。こちらは実際に縫うところを見せてもらったのですが、ミシンのなかでも様々な種類の送りのパーツを取り付けられるミシンということで、実際にその送りパーツのおかげでとてもスムーズな縫製が可能とのこと。ぜひ実際の端始末を見ていただき、その美しい直進線を見ていただけたらと思います。

そしてもう一つが長方形のパーツを縫いわせるフラットシーマという縫製です。一般的に2つの生地を縫いあわせる場合にはまず生地を重ねて、その上から縫いあわせていくことが多いですが、フラットシーマミシンでは2つの生地を重ねることなく一体化させていくことが可能です。縫い合わせるところに生地の重なりが無いために、肌にあたる部分に凸凹がすくなく(フラットと呼ばれる所以です)、快適な着用感につながります。全ての工場がこのフラットシーマ機を備え付けているわけではなく、その意味でも大原ソーイングのレベルの高さがわかります。


印象に残っているのは働かれている皆さんの姿です。寡黙だけど誇りを感じる職人さん達の後ろ姿。技術を束ねる技術長(私たちにもいろいろな縫い方を見せてくれました。そのミシンを操る手さばきの動きの美しさ!)、雰囲気を作ってみんなをまとめる笑顔が素敵な工場長、そして経営者として事業を成立させる優しい眼差しの社長。本当に良いチームで、この人たちに作ってもらえることがとても有難かったです。


TANNUKIのネックウォーマーを使ってもらう時、いすみ市の縫製工場で、こんな風に作られている、ということを想像してもらえたら、企画をしている私たちもうれしいですし、

きっと大原ソーイングの皆さんもうれしいと思います。

ネックウォーマーで暖かさを感じてもらうときに、職人さんたちの暖かさも感じてもらえたらと思っています。


Profile

大原ソーイングさん

千葉県いすみ市にある縫製工場。 高い技術力を誇る。