かっこいいって、こういうこと。

Broccoli playhair 藤川英樹さん

かっこいい生き方をする、そう口に出すのは難しいことです。口に出した途端、自分の言葉に縛られ、ハードルも上がる。かっこいい生き方をしたいと心では思っていても、実際にそれを口にするのにはもう1次元、気持ちや覚悟が必要に思います。自分の言葉に向き合う勇気。英樹さんはそんな勇気を持つ、かっこいい人です。


美容師になるまで

英樹さんは兵庫県姫路市で生まれ育ちます。小学生の途中くらいまではとても内気で一人で遊ぶのが好きだったとのこと。小学校高学年でのある先生との出会いをきっかけにして自信が芽生え、世界が広がります。そのタイミングからは学級委員もやってリレーの選手もやって、リーダー的な部分が開花していくことになります。中学から高校まではずっと野球を続けます。一方で部活終了後には洋服のセレクトショップでアルバイトもします。クリストフ・ルメールも着る野球部員というのは中々目立つ存在だったのではと想像します。


将来の職業は美容師、と小学生の頃には決めていました。英樹さんの両親は姫路市郊外でいくつか美容室を経営しています。「今の僕から見てもかっこいい美容室だなと思うくらい。」近くに田んぼもたくさんあるような郊外に建つ、センスの良い美容室だったとのことでした。その影響もあり、進学校だった高校からは大学に進む同級生が多かった中、迷わず美容学校に進みます。「美容師一択でしたね。」


美容師から世界一周、そしてまた美容師に

英樹さんは、恵比寿にあるBroccoli playhairという美容室のオーナーです。小さい頃に美容師になることを決め、決めたことに向き合い、30歳の時に自身のショップを立ち上げました。


高校卒業後、東京の美容学校に2年通った後に、まずは六本木の美容室に入ります。当時はカリスマ美容師の全盛時代で究極の買い手市場。美容師になりたい人が多く、面接は5次、6次が当たり前だったとのこと。その面接を突破し、美容師として1人前になるための修行が始まります。「イケイケドンドンの時代だったし、遊ぶし、一方で練習もしました。」「ほんと、めちゃくちゃ練習しました。」


通常、同美容室では、アシスタントからスタイリストしてデビューするまでに4年ほどかかるとのことでしたが、「アシスタントが嫌いすぎて。」ということもあり、練習を積み重ね、その過程を2年で終了します。周囲よりもかなり早いデビューだったこともあってか、先輩や同期よりも後輩たちと仲が良かったとのこと。当時から、若い人を引っ張っていく姿勢があったのだろうと思います。

そして、スタイリストになって1年半後にお店を辞めます。その後、フリーランスとしての活動やオーストラリアでの生活、世界一周旅行、帰国してからのいくつかの出来事を経て、自身の店をオープンさせます。来年2022年の4月には節目の10周年を迎えます。


ランニング

英樹さんがランニングを始めたのは、ショップをオープンさせた2年後、今から8年前のことでした。最初はダイエット目的で、その後走る仲間も出来て、習慣的に走るようになります。「みるみる身体が変わっていくのが面白くて走っていました。」

その後はトレイルも走るように。「街を走るとつい途中で買い物しちゃって、山の中なら買い物しなくていい。」というきっかけもあって、山にも走りに行くようになりました。そんな形で5年間ほどランニングを続けた後、初めてのレースに出たのが今から3年前、高地を7日間で250km走る、アタカマ砂漠レースに挑戦し、完走します。その過程から、自身にチャレンジすることがより楽しくなっていったとのことでした。100マイルのレースにも参加しだし、どっぷりとトレイルランニングにはまっていきます。

丁度長い距離を走り始めたタイミングで、仲間とチキンハートランニングチームを立ち上げました。ただ楽しむだけのクラブではなく、しっかり練習し、結果を出すチームとしての活動がしたくて、チームと名付けたとのことでした。 最初は絞ったメンバーで活動を行っていましたが、次第に若いメンバーが多く参加していきます。「やっぱり若者を巻き込むことが楽しい。」「トレイルランニングに向き合い、苦しいことも乗り越えていくことで、これからの人生で色々なことが起きるときに絶対力になると思うんです。若い子たちにそういう経験を得てほしい。」と気持ちを話してくれました。


英樹さんは現在、最も過酷なランニングレースの1つであるバックヤードウルトラという大会に出場を続けています。このレースは1周約6.7kmのコースを1時間以内に完走することを、最後の一人が決まるまで延々と続けていく大会です。前回の東京大会では37周で248km(つまり37時間以上走り続けるということになります)を走りきり、3位相当(実際には同大会では一人の勝者以外はDNF扱いということで、3位という順位は存在しないようですが)に入りました。この成績により2022年に開催される世界大会に出場する予定です。今回のレースの感想を伺ったところ「10時間目くらいからずっときつかったです。川に落ちてけがしたら辞められるのでは、などとずっと考えていました。」とのこと。本当に過酷なレースで、なぜ辞めないで続けられるのか、それは「去年の自分を超える。」ことへの圧倒的なモチベーションにあるようです。去年のレースでは、「最終周回に自分で辞めること決めていましたよね。」とサポートメンバーにも言われ、彼らに辞める姿を見せるわけにはいかない、自分で制限をかけない、という気持ちもありました。結果として、前回の記録を大きく超える38周目途中でのタイムアウト。「出し切れましたね。」と話してくれました。


photo by Takumi Ishiyama
photo by Takumi Ishiyama

かっこいいということ

「かっこよくあることは大事、意識したい。」と口にする英樹さん、男性からも女性からも好かれる、本当にかっこいい人なのですが、なぜかふとした時に英樹さんから感じるのは哀しさなのです。哀しさなんて全然ないような生き方、に思われるのに。でも一方でどこかに哀しさがあるから37時間で250kmというような途方もないランニングを達成できるのではとも感じられます(写真や映像で見ただけなのですが、バックヤードウルトラという大会にもどこか哀しく切ない雰囲気があるように思います)。自分の好きなところは?との問いには「自信がなくて、人の目も気になるところ。」と答えてくれました。だから自分が自分でいられるし、更によくなろうというモチベーションが生まれて、成長できる、と。これはどのようなことを達成してもまだまだやれるという部分につながる、満足をすることがない、そんなある種の哀しさにも繋がるのかもしれないと思いました。


インタビューの最後に、大事にしている価値として、『“今”を大切に生きる』という言葉をあげてくれました。ビジョンや夢を設定して、そこに向かってプランを立てるのではなく、今に集中し、今を大切にする。ここにも英樹さんの覚悟が感じられます。


強さも哀しさも覚悟も、すべてが含まれる。

かっこいいとはこういうことなのかと改めて思いました。


Profile

藤川 英樹さん

Broccoli playhair オーナー

兵庫県出身。専門学校を卒業後、六本木の美容室を経て25歳でオーストラリアへ渡る。1年滞在したのち、美容師をしながら世界一周の旅を続けて28歳で帰国。その後30歳で恵比寿にBroccoli playhairを立ち上げる。 国内外でのトレイルランニングレースに出場するほか、ランニングチームを結成し、日々チームメンバーを牽引する。